2022年末、日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出し、約1兆円(約1,980億台湾ドル)の予算を計上して3つの数値目標を掲げた。スタートアップへの年間投資額を当時の約8,000億円から10倍の10兆円(2027年度)へ引き上げること、ユニコーン企業を100社育成すること、そしてスタートアップを10万社創出することである。
4年が経過した現在、その成果はどうだろうか。
結果は芳しくない。2025年時点で日本のユニコーン企業はわずか8社にとどまり、計画開始時点から2社増えたに過ぎない。一方、米国では2024年に670社を数え、日本の80倍以上である。スタートアップの年間資金調達額も7,000〜8,000億円にとどまり、10兆円の目標とは桁が一つ異なる。唯一顕著に伸びたのはスタートアップ数で、約2万5,000社と2021年の1.5倍に増加し、裾野自体は広がった。
しかし、数が増えたからといって、そのすべてが投資家にリターンをもたらす「優良企業」であるとは限らない。
今年のIVSカンファレンスで行われた2つのベンチャーキャピタル(VC)パネルセッションでは、日本の第一線で活躍する投資家たちがこの課題を率直に議論した。日本のスタートアップエコシステムは今、どのような状況にあるのだろうか。
エコシステムは成熟したのか?「厚み」と「格差」の両面
JAFCO Groupの坂祐太郎代表の見解は、やや楽観的だ。JAFCOは1973年設立の日本で最も歴史が長く最大規模のVCであり、これまでに4,000社以上に投資し、1,000社以上を上場させてきた。
同氏は、新規上場件数の減少や成長株の株価低迷は事実であるものの、重要な指標は崩れていないと指摘する。「資金供給量は実際にはそれほど減っていない」。同氏が2012年にJAFCOに入社した当時、日本のスタートアップの年間資金調達額は約600億円に過ぎなかったが、現在の7,600億円は当時の10倍以上だ。2000年のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックで見られた資金の大量流出とは対照的に、今回は資金がスタートアップから離れておらず、VCの設立数や資金供給量は今後さらに増加する可能性さえある。
一方、Artemis Venturesのマネージング・パートナーであるアーチボルド・シガナー氏は、別の角度から切り込んだ。フランス出身で在日27年、20年近く日本株投資に携わってきた同氏は今年、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の参画を得てArtemisを設立し、最初の投資を完了した。同氏は日本市場の規模が依然として小さすぎると指摘する。「日本のスタートアップが1年間に調達する資金総額は、米国株式市場のわずか2週間分の取引高に過ぎない」。同氏の前職が毎年米国のスタートアップに投資していた金額だけで、日本の資金調達総額に匹敵する。GDP比で見ても日本は先進国の中で著しく低い。その理由の一つは、イノベーションがスタートアップではなく大企業内部で生まれている点にある。
シガナー氏はさらに、2021年以降の資金調達額の横ばいはコロナ禍による一時的な停滞に過ぎず、動能は残っていると述べた。より重要なのは、日本が長年のデフレから脱却しインフレ局面に入ったことだ。デフレ時は現金の保有が最も安全でリスク回避傾向が強まるが、インフレ下では現金の価値が目減りするため、リスクをとって投資するインセンティブが働く。この構造変化は、VC資金を必要とするスタートアップにとって強力な追い風となる。
資金の出し手について、X&KSKマネージング・パートナーの山本航平氏は別の視点を提供する。同氏は本田圭佑氏のファミリーオフィスを起点に約250件のエンジェル投資を手掛け、現在は著名人を中核とするファンド(国内約155億円、全体約450億円規模)を運営している。「資金には色がある。優れた創業者ほど、誰からの資金であるかを重視する」。米国ではVCが資本市場に完全に組み込まれており、著名人ファンドはその分散手段の一つに過ぎない。これこそが日本でまだ構築途上にあるレイヤーであると同氏は指摘する。
日本のスタートアップエコシステムの根本的な病灶:資金ではなく「優良企業」の不足
「問題は極めて単純で、優良企業が少なさすぎることだ」とDual Bridge Capital代表の寺田修輔氏は語る。
寺田氏はシティ証券出身で、現在率いるDual BridgeはMidas Capitalグループ傘下のVC(Midasは自己資本投資約2,500億円、Dual Bridgeは約150億円)である。
寺田氏の言う「優良企業」とは、投資家に確かなリターンをもたらす価値のある企業を指す。同氏の観察によれば、日本にはリターンを問わない資金が過剰に存在し、評価額(バリュエーション)を無理に押し上げている。その結果、VCが濫立して管理手数料で生き残り、業界全体が政府の補助金に依存する構造に陥っている。「本当に優れた企業は資金に困っていない。世界中の投資家が超過リターンを求めているのに、資金不足だからと資金を投じる前提自体が間違っている」。
同氏は2つの処方箋を提示する。
1つ目は、大企業の優秀な人材をスタートアップへ引き入れることだ。同氏が投資するGENDAの代表取締役社長兼CEO・片岡尚氏は、もともとイオングループ上場子会社の社長であり、在任5年で営業利益と時価総額を5倍に拡大させた実績を持つ。GENDA参画後、創業6年目で売上高1,000億円突破という日本スタートアップ初の快挙を成し遂げた。大企業のトップ人材をエコシステムに引き込み、強力な経営陣とVC資本を組み合わせることで、世界レベルの優良企業が生まれる。「スタートアップ界隈でCFOがたらい回しにされる状況を脱し、大企業の最強人材を呼び込むべきだ」。
シガナー氏も、日本の最大弱点は言語(英語力)にあると付け加える。「創業者が英語を話せなければグローバルトレンドを捉えられず、海外展開は極めて困難になる」。日本最高評価額のユニコーンであるSakana AIの創業者に外国人が含まれ、英語が流暢であることは偶然ではない。
2つ目の処方箋は評価額の適正修正である。5カ年計画による補助金相場で過大評価されたバリュエーションは、補助金が止まることで金融商品として適正な水準に戻る必要があると寺田氏は指摘する。「温水煮ガエル状態から目を覚ますきっかけが必要だ」。
イグジット(Exit)の難題:IPOは容易すぎるが、M&Aの枠は狭い
5カ年計画の資金供給はIPO市場にも影響を与えている。
東京証券取引所は2022年4月に市場再編を行い、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編した。スタートアップの多くは高成長ポテンシャル企業向けの「グロース市場」へ上場する。
しかし、グロース市場は現在低迷している。東証グロース250指数は2026年7月初旬時点で約700ポイントと、2020年の基準値(1,000ポイント)を約3割下回り、直近高値からも大幅に下落している。日経平均株価が最高値を更新する一方で、上昇はAIや半導体の大手銘柄に集中し、中小型の新興株は資金から冷遇されている。「上場即ピーク(上場ゴール)」と揶揄される背景がここにある。
mixi経営者を経てレイターファンドを運営する朝倉祐介氏は、上場前に十分な資金を調達できず、未成熟なまま上場に追い込まれる構造問題を指摘する。「上場できるとなると急いで上場してしまう」。同氏はより長期的な視点を持つことを助言する。
個人エンジェル投資家の田端信太郎氏も、公開市場の投資家視点から直言する。成長株が見るべきは売上高ではなく「利益成長」であり、上場株投資家の心理を理解していない社長が多いと批判する。「個人投資家の100万円はS&P500にも投資できる。前年比10〜20%の成長では公開市場で相対的に埋没する」。Tybourne Capitalの持田昌信氏も、利益を伴わない成長は成長とは呼べないと同調する。
イグジット構造の違いも根深い。朝倉氏は、北米のイグジットの8〜9割がM&Aであるのに対し、日本はIPO偏重であると指摘する。日本のM&A金額は長期にわたり約50億円の壁に阻まれており、Paidyが3,000億円で買収されたような事例は極めて稀だ。田端氏は、日本企業が大型M&Aに踏み切れない理由として、買収後のシナジー創出への自信欠如や、社内の給与格差に対する嫉妬の力学、硬直的な労働市場を挙げる。
一方、Dual Bridgeが所属するグループは年間40件以上・900億円超のM&Aを手掛ける。製造業Sei Holdingsの上場前、同社は適正な公正価値(68億円評価)で投資を行い、その後時価総額235億円で上場、現在は約400億円規模へ成長させた。「適切なバリュエーションで企業を大きく育てることこそが、長期的なリターンを生む」。これが日本政府もM&Aによるイグジットを強力に推進し始めている理由の一つだ。
上場後:いかに株主から選ばれるか
Rheos Capital Works創業者の藤野英人氏は、「株価 = EPS(1株当たり利益) × PER(株価収益率)」の公式を提示する。地味な中小型株であっても、年20〜30%の成長を3〜5期連続で達成すれば、PERのマルチプルが拡大し、株価は3〜5倍へと跳ね上がる。一方で業績が乱高下する企業のPERは低迷し続ける。「単発の大幅増益よりも、着実な30%成長を継続する企業が市場に好まれる」。田端氏も「小さな約束を守り、階梯状に成長を重ねることが長期的に最も有効だ」と語る。
藤野氏はまた、日本の「未上場世界(未上場村)」と「上場世界(上場村)」の断絶が多くの問題の源泉だと指摘する。未上場側は夢を追う世界だが、上場した瞬間に毎日の株価形成とアナリストの分析に晒される金融理論の世界へと切り替わる。「未上場村の人間こそ、上場村のロジックを理解すべきだ」。
これら4年間の日本の変化は、日本進出を目指す台湾スタートアップにとって明確なサインを示している。日本の資金量は豊富だが、流れる先は少数の「真の優良企業」に限られるため、補助金相場で膨らんだ評価額に惑わされてはならない。そして、日本が公認する弱点(グローバル化・英語力)こそが、台湾チームにとって強力な補完のチャンスとなる。
最後に、イグジットの手段として、IPOだけでなくM&Aを通じた拡大戦略も極めて有力な選擇肢として検討すべきだろう。